【学んで貢献】災害拠点病院・災害医療を知れば誰かを救えるかもしれません【東京都を例に】

木曜日, 3月 11, 2021

災害医療

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あなたが学ぶことで誰かの命を救うかもしれません。


※この記事では、応急処置など医療行為についてではなく

災害拠点病院や災害医療のシステムについて知っていただくことを目的に書きます。

※ここでの「災害」はおもに大規模地震を指します。

東京都と私の勤務先(災害拠点病院)の事例を中心に書きます。

都道府県や病院によってルール、対応が異なることを前提にお読みいただければと思います。

医療職の方は時間がなければ「災害医療・災害拠点病院についてもっと知ろう」まで飛ばしてください。
貢献

あなたは災害拠点病院にどんなイメージを抱きますか?

病院で勤務している方、そうでない方によって、災害拠点病院のイメージは異なります。

その名称から「災害に強く、災害時に診療を行う病院」とイメージする方が多いのではないでしょうか。

間違ってはいませんが、もう一歩踏み込んで知っていただきたいことがあります。

今のままだと起こること

SNSやインターネットで災害拠点病院について医療職以外の方が発信されている内容から推測すると、こういった行動をとる方が多いのではないでしょうか。

災害(大規模地震)が発生、街に甚大な被害が出た。
自分もケガをしたので、避難を兼ねて家の近くの災害拠点病院に行こう。
あそこは備蓄も発電設備もあるしなんとかなるだろう。

結論から言うと、この行動は円滑な災害医療を妨げる一因になります。

災害発生時、あなたが何も考えずこの行動をとらないようにこの記事を書きます。

災害拠点病院と災害医療について知る

災害拠点病院とは

厚生労働省の定めた指定要件にもとづき、各都道府県が指定します。

東京都では災害拠点病院について、

「災害時における東京都の医療救護活動の拠点となる病院」としています。

(東京都福祉保健局 東京都災害拠点病院設置運営要綱

この要綱では災害拠点病院の指定基準や運営について定めており、

災害拠点病院についてはこちらを読んでいただければ大体のことは知っていただけると思います。

ですが、これだけでは冒頭で挙げたイメージと変わらないかもしれません。

そこで、私が特に読んでいただきたい点を紹介します。

特に読んでいただきたいこと

要綱の運営方針にはこう書かれています。

「災害拠点病院の収容対象者は、原則として、区市町村が設置する医療救護所及び緊急医療救護所(以下、「医療救護所等」という。)で対応できない重症者とする。」

これが私が最も伝えたかったことです。

もうお分かりかと思いますが、災害拠点病院の主な対象者は「重症者」です。

つまり、重症者以外が災害拠点病院に向かうという行動は誤りです。

ただし、例外があります。後程書きます。

「重症者」とは

「重症者」とはどのような層を指すのでしょうか。

東京都が公開しているトリアージ(※)実施基準によると、「重症群」に当てはまるのは

「生命を救うため、直ちに処置を必要とするもの。窒息、多量の出血、ショックの危険のあるもの」

とされています。

病院事務員(医療の素人)からしても、大変な状態であると推察できます。

(※)トリアージ・・・災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合、傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めること

(東京都福祉保健局 トリアージ より)

あなたが病院に向かうと何が起こるか

結論から言うと、期待する医療は受けられないと思います。

もちろん過去の災害時には、災害拠点病院でも軽症・中等症患者を診ていたと思います。

ですが災害医療の原則としては、そういった方の対応は後回しなのです。

病院の対応

外来患者が多数押し寄せることは病院側も想定しています。

私の勤務先(災害拠点病院)の災害対策マニュアルにおいても、外来患者が殺到することが盛り込まれています。

その内容は「外来に押しかけた人々に対応し、院内に入れないようにする」です。

災害拠点病院に指定されている病院は基本的に二次救急以上の医療機関であり、平時でも入院患者を多数抱えています。

そのような病院で災害時に来院者を受け入れてしまうと、院内の治安に気を配る必要が生じ、なにより避けなければならない院内感染のリスクも高くなります。

敷地の端っこや廊下でいいから、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、

そもそもそういった来院者に対応するための担当者を配置すること自体が病院側にとって負担になります。

災害時、特に大規模地震など移動が制限される状況においては、院内の人員確保は死活問題です。

原則はそうですが...

病院としては、処置が必要な患者に適切な医療を提供し、今いる入院患者や院内職員の安全を守るために

院内に患者を入れたくありません。

ですが実際問題、多くの患者が押し寄せる状況ですべての来院者を制止することは不可能です。

確かに災害拠点病院は耐震構造ですし、備蓄食料や水もあります。

ですがそれらの設備は入院患者や、診療に死力を尽くす院内職員のためです。

先ほども挙げた東京都災害拠点病院設置運営要綱では、設備について

「食料、飲料水、医薬品等について、流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、3日分程度を備蓄しておくこと。その際、災害時に多数の患者が来院することや職員が帰宅困難となることを想定しておくことが望ましい。」

とあります。

多数の患者来院について記載はありますが、あくまで「望ましい」という努力目標であり、

コストや保管スペースなどの制約から、地域の住民に提供できるほどの量を病院に備蓄させるのは現実的ではありません。

災害時に災害拠点病院に向かうということが、ヒト・モノ・カネのあらゆる面で病院に負担をかけることになると理解していただけたかと思います。

災害拠点病院に向かってもよい「例外」とは

それは「緊急医療救護所」に向かう場合です。

東京都では、災害発生時に区市町村により災害拠点病院の近接地等(病院開設者の同意がある場合は、病院敷地内を含む。)に緊急医療救護所が設置されます。

ここで先述のトリアージが行われ、軽症者に対する応急処置及び搬送調整を行います。

患者が然るべき場所でトリアージを受けることは、医療のフィルターを通り、適切な分類を受け、医療資源の最適な配分が行われるということです。

それが結果的には、重症患者を担当する災害拠点病院や、中等症患者を担当する災害拠点連携病院の負担軽減、効果的な医療の提供につながります。

今回は割愛しますが、医療救護所や活動する組織には色々な種類があり、それぞれが役割を有しています。

気になった方はぜひ調べてみてください。

災害医療、災害拠点病院についてもっと知ろう

学んでみませんか?

今回、たくさんの情報を提示しました。

これらの情報はどれも行政のホームページにきちんと掲載されています。

医療に携わっていない方にとっては取っ付きにくいものだったかもしれません。

医療職の方でも、これらのマニュアルや要綱を読んだことがある方はかなり少ないです。

私はこれらの資料が読まれないのは「存在を知られていない」ことが主な要因だと思っています。

じゃあなにから学べばいいの?

東京都にお住まいの方、勤務している方は今回の記事でも紹介したこれらのページを読んでいただきたいです。




経験も大事ですが、私は何事もまずは「型」を知ることからだと思っています。

これらの資料では、災害拠点病院はどういった医療機関なのか、災害医療はどのような手順で実施されるのかが定義されており、

どのタイミングで、なにを目的に、どこの機関が、どのような動き(連携)をするのかを知ることができます。

東京都以外にお住まいの方、おそらくあなたの都道府県でも同様の資料があります。

それぞれの都道府県の事情に合わせて作られているので、ぜひ調べてみてください。

あなたが学べば誰かを救えるかもしれません

これらの情報に対して、普段は

「私は医療従事者じゃないから」「専門家が知っていればいいから」

と思う方もいるかもしれません。

ですが、ひとたび災害が発生すれば、たちまち自分は「被災者」になり「患者」になります。

まさに「当事者」です。

そのような状況下で、聞いたことのある災害拠点病院に向かうのか、まずは医療救護所を目指すのかは、周囲にもたらす影響に大きな差を生みます。

災害拠点病院に向かう人をひとりを減らすことは、確実に病院職員の負担を軽減し、

診療の質を高め、ひいて誰かの命を救うことになるかもしれません。

この記事が災害医療に関する知識を学び、非常時にあなたが取る行動を見直すきっかけ
になることを願います。

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病院で働いています。 仕事や医療業界について思うことをnote以上に書いていきます。https://note.com/omochi_company

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