これまで医療業界では他の業界に比べてIT化が進んでいませんでした。
しかし、最近はDXの追い風を受けて新たなシステム・ビジネスツールがどんどん導入されている病院もあると思います。
この記事は、
①勤務先に新たなシステム・ツールが導入された方
②これから新たなシステム・ツールを導入する(検討している)方
にとって何らかのアイデアを残せると思います。
転職前の職場も含め私の経験をもとに書いていきます。
ビジネスツール導入は、はじめが肝心です
この章では、導入の前段階として確認しておくべき点を書きます。
病院ならではの事情、自院ならではの事情を把握する
ビジネスツールを担当する部署の方は、まずホームページや口コミサイトなどから情報を得ると思います。
そこでは、そのツールを用いてどのようなことができるのか、どれほど業務を改善できるのかがとてもスタイリッシュに謳われており、ついつい万能と感じてしまいます。
しかし、医療機関に特化して作られたツールでない限り、ほとんどは(医療業界以外の)一般企業での使用を想定して作られたツールです。
病院にはその他の企業とは異なる点も多いため、そのツールが実情に即しているかは考えておくべきです。
職種ごとのPC使用頻度や当直・土日などバラバラで流動的な勤務体制、患者情報のやり取りへの制限などが関係してくると思います。
例として、次章で紹介するチャットツールで考えるとその強みのひとつは「即時に情報を共有、意見のやり取りができること」です。
ですが、当直者と日勤者の間での情報のやり取りを目的に導入した場合、お互いがチャットをすぐに確認することは少ないためチャットツールにこだわる必要はないかもしれません。
これ以外にも各法人・医療機関ごとに様々な事情があると思います。
ホームページに書かれた情報だけでなく、実際の業務でどのような効果を発揮できるのかをある程度想定しておくべきだと思います。
いかに普及させるかがすべて
ビジネスツールを導入する際、はじめの一ヶ月、もっと言えば2週間くらいが
そのツールが活かされるか置物になってしまうかの分水嶺です。
どんな便利なツールでも、使われなければ意味がありません。
当たり前のことですが、この「普及」の部分で力を抜くとそのツールはその本領を発揮する前からオワコン化してしまいます。
色々な職種がそれぞれの働き方をする病院では、何か新しいことを導入してもなかなか足並みが揃わないこともあります。
そこで、次章ではこれらのツールを普及させるためのアイデアを提案します。
ビジネスツールを普及、浸透させるためのアイデア
一気呵成に普及させる
スピード&効率重視で、院内に一気に広めましょう。
中途半端に広めると、システム変更の意欲が高い部署Aでは新システム、
新システムに抵抗のある部署Bでは旧システム、のようにまだら模様で広がってしまいます。
ダブル・トリプルスタンダードは一番非効率なのでこれは絶対に避ける必要があります。
トップダウンの組織構造を利用
医療業界は強いトップダウン構造です。
大学病院や規模の大きい法人だとなおさらかと思います。
普段は厄介なことも多いこの仕組みですが、これを利用しましょう。
(むやみに新システムを導入することに反対の方もいます。今回はあくまで導入推進派の視点で書きます。)
具体的には、各職種の管理職が集まる会議などでを周知を徹底します。
理事など上席の賛同という錦の御旗を掲げられればなお良いかと思います。
ですが、このやり方は軋轢を生み禍根を残す可能性があるので、
各部署の管理職に新しいツールの利便性を理解し、良いイメージを抱いてもらい普及していくことが最善だと思います。
優先度・使用頻度を下げない工夫を
いざ新システムが導入されても、末端まで浸透しなければ効果は限定的です。
ありがちなのが部署内でパワーを持つベテラン職員が「こういうのは難しいから」と掃いて捨ててしまうケースです。
それらを防ぐために、二つの段階で導入・普及を進めましょう。
第一段階:まず使ってもらうために「〇〇会議はすべてWEB会議に変更」など半強制的に使用機会を生み出す
第二段階:継続的な使用のためにヘルプデスクを設置し、サポートを万全にして使用の意欲を下げないようにする
最初は問合せが多く大変かもしれませんが、最近のシステムは最低限使うだけであれば直感的に操作できるようになっています。
余談ですが、私の勤務先でも最初こそ「何これ!分からない!」とプチパニックを起こす方がいましたが
1ヶ月もすれば皆何事もなかったかのようにシステムを活用しています。
なかには、事務部門でも把握していない新機能を使ってもよいか問合せてくる部署もあるくらいです。
各部署で考えた効率化のアイデアの中で良いものがあれば、院内全体にノウハウを広めています。
それぞれの部署が現状に即した改善案を出してくれて、それが全体の利益につながるというのは思いがけぬ副産物でした。
ビジネスツール導入で特に重要と思うこと
実際にツール導入を経験した立場から、特に重要と思うことを紹介します。
大事な箇所は徹底的にレールを敷く
具体的には、効率を落とす点は徹底的にそぎ落としましょう。
そもそも、新しいツールによる効率化というのは、二つの側面があると思います。
①新しい機能追加による効率化
②古い慣習を撤廃することによる効率化
会議ツールを例にとると、こんな感じです。
①ZoomやWebexを導入することによりオンライン会議が可能になる
②対面の会議がなくなり、紙資料の印刷が不要になる
ここで特に重視しなければならないのは②古い慣習を撤廃することによる効率化です。
新しいツールを導入するタイミングというのは、仕事のやり方を大きく変えるチャンスです。
これまで面倒だと思っていた業務フローを、新しいツール導入にかこつけてまとめてリセットできる数少ない機会なのです。
ですが、変化を嫌う人はこれまでのやり方を踏襲し、効率化を阻害してしまいます。
長くなりましたが、それを防ぐためにレールを敷くのです。
今回はWEB会議ツール、チャットツールで考えてみます。
重要な点以外は完結に行きます。
レールその1 オンライン会議ツールの場合
①紙資料を廃止する
紙資料を必要と訴える人がいる反面、紙資料がいらないという方も同じくらいいます。
会議をセッティングする側にとって、紙資料の準備というのは想像以上に手間がかかる作業です。
欲しい人だけ印刷する、最悪印刷しなくてもデジタル媒体で閲覧可能という仕組みを当たり前のものにしましょう。
②表示名、カメラON・OFFを事前に統一する
氏名(名字だけ、ローマ字・漢字表記など)、部署名の有無 など
これだけで出欠管理が格段に楽になります。
会議の司会をする人も助かると思います。
また、カメラのON・OFFも事前に決めておいた方がいいです。
カメラで顔を映す場合、参加場所や服装など色々な準備が必要になりますし、どちらか明確になっておらず当日その場で分かることが一番手間だからです。
③発言時のルールを決める
挙手機能を使うのか、勝手に話し始めていいのか、司会者が順に当てていくのか など
(これはそこまで優先度は高くないです)
レールその2 チャットツールの場合
①宛名のルールを決める(メンション)
チャットツールというのは「@(アットマーク)」を打った後に登録名を入力すると、サジェスト機能で自動的に名前が入ります。
(例)@佐藤 太郎→@佐藤 太郎 ※使用頻度が高い名前なら一文字目を入力した時点で予測変換がでます
私の好きなslackでは「メンション」といいます。
人名を入れるときは必ずメンション機能を用いることのルール化は必須だと思います。
名前の色が変わったり強調されて表示されることで視認性が高まったり、該当者に通知が届いたりと様々なメリットがあります。
メンション機能を知らない人は結構多く、宛名の人が自分宛のメッセージと気づかず見落としてしまうことがあります。
また、メンションを使用しても、その後に「様」「先生」を付けたり、
「お世話になります」などの枕詞を付ける人がいます。
(例)@佐藤 太郎様 内科@佐藤 太郎先生 など
私も体験したことがありますが、些細なことに思えてこの差がのちのち結構効いてきます。
これが当たり前になると、チャットのスピードを下げ、気軽に情報交換ができなくなってしまいます。
これこそ、メールにおける非効率な古い慣習です。
先述の②古い慣習を撤廃することによる効率化はこのように非常に地味なところから妨げられます。
名前を呼ぶときはメンションを使う、「様」などは禁止、と最初に決めておきましょう。
②スタンプの活用
チャットでの問いかけに対し、全員が「賛成」「反対」などと書いていくとトークが長々と占められてしまい効率を下げます。
チャットツールにもよりますが、スタンプは発言ごとに使うことができるので積極的に使うように促しましょう。
(「ありがとう」「OKです」など様々なスタンプがあります)
重要な発言に対しては、既読の代わりに使うスタンプを定めておき、必ず押すように決めておくのも良いかもしれません。
ただし、賛否を問う発言に対してどちらとも取れるスタンプを使用するのはやめましょう。
③返信・スレッドのルール策定
誰かの発言に対してどのように返信するかを決めておきましょう。
返信には、LINEのように全メッセージが順に連なる方法と、最初の発言に収納されるスレッド方式での返信があります。
スレッド返信は、トークを占有しないというメリットがありますが、
見落とされやすくなる、気づかないうちに全員が知るべき話が行われているなどのデメリットもあります。
スレッドの際もメンション機能で通知を飛ばす、スレッド返信と同時に全体のチャット画面にも送信する機能があれば使う、などを決めておきましょう。
DX・IT化に欠かせないこと、一番伝えたかったこと
それは効率化の取り組みを「無礼」と思わないことです。
今回私は「会議資料を紙を配らない」「チャットで名前を呼ぶときに「様」や枕詞を付けない」などの方法を提案しました。
年配の職員には、これらの取り組みを「失礼」「無礼」と捉える人も多くいると思います。
新しいビジネスツールは年配職員からの「それだと相手に失礼だ」という魔法の言葉で、一気に効果を失います。
それどころか、かえって余計な手間が増えることすらあります。
丁寧な対応をすることは何かメリットがあるのか、それを部下に強いることは自己満足ではないのかと見つめ直してほしいと思います。
繰り返しになりますが「効率化≠無礼」ということを理解することが重要です。
※ちなみにこの問題は「自分は関係ない」と思っている30、40代の職員も考えなければならないことだと思います。
仕方ないと思いながらも年配職員のやり方を倣うその世代が、さらに下の世代が出したアイデアを言いくるめて諦めさせるということもよくあります。
部下や後輩を想ってのこととは分かりますが、それは組織の改善を滞留させる一因となっているかもしれません。
文面でも相手に丁寧さを伝える、無礼のないように気を配るというのは下の世代であればあるほどやることが増えます。
業務改善が進めば結果的に若手の離職率や残業時間が減少し、管理職や中間管理職も恩恵を受けられるかもしれませんよ。
「効率化=無礼」という考えを捨てることこそが病院でDX・IT化を進めるうえで最も難しく最も大事なことであると思います。
お読みいただきありがとうございました。
ちなみに...
今回紹介したケースは、私が実際に体験したことでもあります。
私もシステム導入に携わりましたが、民間企業から転職してきた方のノウハウに本当に助けられました。
とりあえずシステムを入れよう!も悪くないですが、必ず最初にルールを決めておくべきということを強く実感しました。
(ルールを決めていてもあれだけ問合せがあったので決めていなかったらどうなっていたことやら...と思っています笑)
また、上司の理解があったことが一番の成功要因だと思います。
大学という組織は旧態依然としたところがあるので本当に幸いでした。
「効率化=手を抜く」と批判する方もいますが、私は成果が変わらないor上がるならどんどん手を抜いていくべきだと思います。
同じ考えの方が増えるといいな~と願っております。
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