一医大職員が考えた「病院の新設・移転の際の注意点、気を付けてほしい(ほしかった)こと」

土曜日, 11月 13, 2021

病院総務

t f B! P L

東京女子医科大学東医療センターが 2022年1月に東京女子医科大学附属足立医療センターとして移転したり、福岡大学病院の本館が2023年12月に建て替え完了など、病院の新設・移転が続いています。今ニュースで話題の日大板橋病院も後に続く形ですね。

今回の記事では、病院事務職員として私がそのような新設・移転「後」の病院で働いた経験から考えた注意点や気を付けてほしい(ほしかった)ことについて書いていきます。

===================

病院で働いていると、施設や設備、システムなど色々なことで不満を抱くことがあります。

他職種の方と話していても、私と同じように困っていたり、診療に支障が出ているという話を聞きます。

それらの問題の中には、病院を新設・移転する際にケアできたこともあるのではないかと思い、記事を書くに至りました。

※おことわり

私は新設・移転から間もない大学病院で勤務しましたが、自分自身が病院の新設・移転に携わったことはありません。

そのため、新病院立ち上げに関わった当事者からすると、反論やツッコミを入れたいポイントが多々あるかもしれません。

また、私は若輩事務職員としての視点からしか書けません。

ベテラン職員や医療職からすると、以下で紹介するような問題は起きていない、もっと重大な困りごとがある、といった意見もあるでしょう。

それらの点につきましてはご容赦いただければと思います。

(追記)この記事は私の経験や、所属する大学組織の事情が多分に含まれております。しっかりとステップを踏み、素晴らしい病院づくりをされている組織が多数かもしれませんし、そこで尽力されている方々を非難する目的はござません。

はじめに

冒頭でも述べたように、病院が新設されたり、移転するというのは大きなニュースになります。

特にその病院が所在する地域や移転してくる地域の住民や医療機関はもちろん、医療圏等が変わる場合は自治体の医療体制や地域防災計画も改訂されたりと、幅広い組織・事物に影響を与えます。

また、病院を運営する法人にとっても、移転専門の部局やチームが立ち上げられて準備を進めたりと、多大なお金や時間、労働力を投入して行う一大事業です。

誰が病院の新設・移転を決めるのか

私が所属する大学では、基本的には理事クラス、法人経営のトップ層が決めています(と思われます)。

なぜ断定できないかというと、管理職でもない私にその話が回ってくるのは、理事会等の資料を通して決定事項として下りてきたときだからです。

大学でも他の企業と同じように、下っ端は何も知らないうちに大きな構想が進んでいることが往々にしてあります。

病院の設立等には行政や政治家も含め幅広いステークホルダーが関わるため、様々な思惑や利害の調整が行われているのだと思います。

事務部門も一握りの上層部は関わっているようですが、本当に限られた人達だけです。

例外として、法人の中枢にある総務部門では各種調査の指示を受けるため、構想を知っていることもありますが、法人に与える影響が大きい案件は当然トップシークレットです。

そのため、一番影響を受けるであろう現場(病院)の管理職クラスでも何も知らされていないことはよくあります。

おそらく大学以外の医療法人でも似た構図ではないでしょうか。

===================

今回の照会する内容も、理事クラスの人達が構想を固める時点で気にしてほしいことがほとんどです。

そのため、この記事がそんな方々に届き、実際に行動に移されることは0.001%もないかもしれませんが、それでも何らかの形で意見を表明しなければ可能性は0%のままだ、という心持ちで書きます。

新設・移転の際に行うことは山ほどある(らしい)

先輩職員から聞いた情報になってしまいますが、どうやら新設・移転の際は相当な業務量のようです。

私自身は経験したことはありませんが、思いつくだけでもかなりのタスクがあります。

・関連病院等への患者の転院、医療機器や各種物品の移動

・行政機関等への各種申請、許認可手続き、立入検査

・関係者への説明、広報

・その他

これらの作業を処理するだけでも骨が折れますが、実際の作業の前には当然計画・調整も必要になり、そちらの方が大変かもしれません。

また、事務組織の一員としては最後に書いた「その他」の業務こそ面倒で時間のかかる、膨大なタスクがあるのだろうと推察します...。

自分は未経験だけど...こんなことを気にしてほしかったランキング

それでは本題です。

すでに述べているように、これからの内容は無知かつ無責任、独断と偏見によるものになります。

そのため、寛大な心で読んでもらえると嬉しいです。

第5位 現場とすり合わせを行ってほしかった、意見を反映してほしかった

これは法人上層部や本部が関わる部分です。

新しい病院で働いていると、真新しい施設や設備で「快適だな~」と思う反面、働くうえで意外と不便なことがあったりします。

どんなに恵まれた環境でも人は文句を言うものなので仕方ないことではありますが、それでも(現場の話をもう少し聞いていればこんなことにはならなかったよなあ...)と思うことがあります。

例えば、他部署・センターへのアクセス動線、使いづらい設備配置などがあったりします。

また、意外と問題になったりすることとして、仮眠室や更衣室の広さが足りないということがあります。

たしかにこれらは直接的には診療には関係がないかもしれませんし、お金を生み出さないため優先順位は下がるかもしれません。

ですが、病院職員からすると、日々の健康や精神衛生に関わる重要な要素のため、これらを蔑ろにすると後々まで尾を引きます。

現に、開院からしばらく経った今でも、日々の業務で仮眠室や更衣室にまつわる苦情やトラブル対応が結構あります。

「病院で勤務する職員全員が満足する病院」はさすがに夢物語ですが、匿名投票でもいいので職員全員から意見を募れば、もう少しは良い病院になるのではないかと思います。

第4位 病院のビジョンを固め、そのために必要な施設・設備を設けてほしかった

こちらも法人上層部によるところが大きいです。

病院のアピールとして「地域から救急患者を多数受け入れる病院!」「災害に強い病院!」などがよく謳われたりしますが、

実際には、救急部署のスペースが小さいために受け入れられる患者数が制限されたり、災害備蓄を保管しておく施設がなかったりということがあります。

施設や設備は後から簡単に増やせるものではないため、病院を建てる段階が最初で最後のチャンスだったりします。

構想段階で病院のあり方やビジョンを固め、その実現のための具体的な青写真をもう少ししっかり描いてほしかったなと思うことがあります。

4位と同様、職員の中には専門的な知識やこれまで限られた環境のなかで蓄積してきたノウハウ等が眠っているため、これを活用しないのはもったいないな~と思います。

第3位 革新的なシステムを導入してほしかった

これは法人&事務部門上層部、立ち上げチームの職員など全体が関わる点だと思います。

システムとひとことに言っても、実際の機器やPCで使用するさまざまなソフトの導入から、業務の進め方や病院全体のワークフローの構築まであります。

このクオリティにより、将来の職員の負担や業務の効率が大きく左右されます。

「とりあえず今までどおりにしておこう」で進むことが一般的かと思いますが、一度決めてしまったものはその後なかなか動かすことはできません。

その結果、長きにわたり非効率な業務を繰り返す羽目になったりします。

私自身も事務組織の一兵卒ですので、上司からの意向は絶対、ましてそれが法人の理事クラスの指示であれば逆らうことはできないことは認識しています。

ですが、新しい業務フローの構築や、システムの導入などは現場の事務職員の裁量で変えられる部分もあったのではないかと感じることがあります。

(もちろん、それ以外の業務が多すぎるためとりあえず今その体制で回っているものはそのままコピペで進めよう、となる気持ちは分かりますが...)

第1位は同率としました

第1位その1 資料やデータの保存方法を確立してほしかった

これは現場の事務部門が大きな裁量を持っていることだと思います。

これまで挙げた項目と比べても、これは病院全体の利益のためというよりは完全に私個人の希望です。

「欲しい資料がどこにもない」「絶対に必要なデータがどうにも見つからない」というのはよほど情報管理のレベルが高い組織に入社・入職した人以外、すべての社会人が経験していることかと思います。

病院は監査や立入検査を受ける機会や個人情報を扱う機会も多いため、文書・情報管理というのは事務運営上の最重要項目のひとつです。

私も何度も経験がありますが、監査の前に最重要書類が見つからず長い時間をかけて資料を探したりするのは本当にしんどいものです。

病院の新設・移転準備の際は大量のデータ・書類が発生します。

その時作られた資料のなかには、大げさに言うと「病院が開院してから閉院を迎えるまでずっと必要」なものもあります。

それをどこで(法人本部?院内?書類専用倉庫?金庫?等)、どのような方法で(書類?データ?PDF?等)管理するか、ということは立ち上げチームの裁量で決められる部分も多いのではないでしょうか。

個人的に「こうしてくれればよかったのに」と思うこととしては、書類のカテゴリーごとに収納棚を区切ってどこになにが残っているかを明示・Excel等に記録しておく、〇〇認定証や〇〇許可書など重要な文書はPDFにしておく、などです。

事務文書やデータ管理に対する意識は、患者情報の管理に対する意識と比べるとまだまだ低いような気がします。

円滑な病院運営には同じくらい重要なことだと思うのですが...。

第1位その2 立ち上げチームには優秀なメンバーを配置してほしかった

超上から目線でこれを1位とさせていただきました。

言うまでもなく、最前線で立ち上げに関わる専門チームには法人のなかでも最精鋭を集める必要があると思います。

何をもってして「優秀」とするかは人によりますが、私はこれらを挙げます。

  1. 病院運営に関する知識、経験
  2. 事務部門以外の医療職、他職種の業務に関する知識
  3. 他院、他業界の取り組み、動向に関する知識
  4. マネジメント能力
  5. PCスキル、事務処理能力

(1)病院運営に関する知識、経験(4)マネジメント能力

これらは説明不要かと思いますので省きます。

(2)事務部門以外の医療職、他職種の業務に関する知識

この知識が欠けていると、事務部門だけが快適なシステムを構築してしまうのではないかと思うためです。

後々問題が噴出し、事務部門が火消しにあたることを考えると、立ち上げの段階で処理しておくことが理想です。

他職種を配置するのも有効だと思います(他職種幹部だけでなく中堅以下も)。

(3)他院、他業界の取り組み、動向に関する知識

病院や大学という閉ざされた組織にいると、内向きの知識ばかりが蓄積されていくことがあります。

ですが、業務改善や効率化に向けた新しい取り組みを行うには、ライバル組織や企業の先行事例を知っていることが必要です。

これには中途採用や出向経験の職員を配置することが効果的かもしれません。

(5)PCスキル、事務処理能力

なぜか軽視されがちなのがこの能力です。

たとえ良い構想があっても、この能力が欠けているチームだと途端に事務処理スピード・完成品のクオリティは下がります。

また、PCを扱う能力はデータ管理の重要性に対する意識とも比例していると思います。

立ち上げ時に膨大なデータが溜まっていき、その後も長年にわたりデータが増えていくことを考えると、最初の土台作りは非常に大切です。

過去の立ち上げチームを見るとなぜか、病院の知識:まずまず かつ PCスキル:まずまず といった人が選ばれていますが、私はその人選には懐疑的です。

プロジェクトを統括する「頭」と実際に書類作成を行う「手」を分けるという考え方があってもいいのではないでしょうか。

前述のその他の能力が足りなくても、PCスキルを有している人は別枠として配置するべきだと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。

理想ばかりを述べましたが、実際にはどうにもならないことも数多くあると思います。

その時のメンバーが、その時の最善を尽くして病院を作り上げたことは理解し、感謝しながらも、こうした病院づくりが広まるといいな~と思います。

構想が秘密裡で進められていたとしても、それが実際に新病院という形になるまでは時間があるでしょうし、Googleフォームでもなんでもいいので病院で働くベテランから若手まで幅広い職員から意見を募る機会があると、もっと良い病院になるのではないでしょうか。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました!

その他記事はこちら

今年は公開講座を受けてみませんか?(2024/3/9掲載)

【経験談】「病院事務職員の新人教育ってなにが正解なんだろう」20代職員の指導経験から紹介(2021/11/23掲載)

【経験談あり】病院にかかってくるセールス・なりすまし電話と対処法【全職員へ】(当ブログで一番読んでいただいている記事です)

【知って得する】春から病院で働くあなたに向けたライフハック【自分を守る方法】

大学病院の立地から見る医大職員の異動について【医療職・事務職】(冒頭の女子医大移転したら更新しなきゃ...またいつかしよう...)

このブログを検索

自己紹介

病院で働いています。 仕事や医療業界について思うことをnote以上に書いていきます。https://note.com/omochi_company

ブログ アーカイブ

連絡フォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ